黒い石は語る









  このページの文は八ヶ岳のフィールドで
  旧石器の研究をされている 堤 隆 氏 から
  提供して頂きました。






 いまからおよそ3万年前、日本列島に住んだ最古の狩人たちは、黒く輝く石を手にした。
それがどんなきっかけか分からないが、ガラスのような鋭利な切り口をもつこの黒耀石の発
見によって、最古の狩人、つまり旧石器人たちの狩猟生活は、格段に進歩したものと考え
られる。黒耀石のヤリは獲物の体を貫き、致命的なキズを負わせた。また、すぐれたナイフ
として肉や皮を切り、木を削るのにも役立った。


 黒耀石は日本中どこからでも産出する訳ではない、藁科 哲男 氏 によると代表的な産
地は、北は北海道から南は九州まで、60か所以上が知られているという。



産地一覧

北海道

 1:白滝・幌加沢

 2:十勝三股 

 3:置戸 

 4:赤井川 

49:名寄

50:近文台


70:秩父別

51:滝川

55:美蔓

56:豊泉



青森県

 5:出来島

 6:深浦

52:折腰内

57:戸門

58:鶴ヶ坂


秋田県

 7:男鹿






岩手県

 8:雫石

 9:折居

10:花泉




宮城県

11:湯倉

12:塩釜





山形県

13:月山






新潟県

54:佐渡

68:上石川

14:板山

15:大白川



栃木県

16:高原山






東京都

22:神津島






群馬県

67:大窪沢






神奈川県

17:箱根・笛塚

18:箱根・畑宿

19:鍛冶屋




静岡県

20:上多賀

21:柏峠西





富山県

59:魚津






石川県

53:比那






福井県

47:安島

48:三里山





長野県

23:霧ヶ峰・男女倉・和田峠 

24:麦草峠・双子池



島根県・隠岐

25:加茂

26:津井 

27:久見

28:福浦



大分県・姫島

29:観音崎

30:両瀬

31:稲積

32:オイ崎



大分県

33:塚瀬






熊本県

59:小国

60:南関

61:轟

43:冠ヶ岳

62:白浜

 

宮崎県

63:桑ノ木津留






鹿児島県

44:出水(日東)

64:五女木

65:上牛鼻

66:平木場

45:滝ヶ水

46:長谷

佐賀県

39:腰岳

69:稚葉川





長崎県・壱岐

34:久喜ノ辻 

35:君ヶ浦

36:角川

37:貝畑



長崎県

38:松浦

40:淀姫

41:中町・古里

42:大崎



   


      藁科 哲男 氏 の石器原材の産地分析のデータより (京都大学原子炉実験所)


隠岐島の黒耀石も代表的なもののひとつである。各産地の黒耀石は、含まれる元素の
量が微妙に異なっていることから、その元素の構成を蛍光X線などの方法で調べること
によって、どこの黒耀石かがつきとめられる。
旧石器・縄文時代の狩人たちは、この優れた石のとりこになり、時に百キロ以上もの距離
を越え、あるいは海を渡るなどいくつかの困難を乗り越えても、この石を手に入れようとした。
静岡県沼津市土手上遺跡の25,000年〜30,000年前の地層から発見された黒耀石は、
相模湾沖に浮かぶ神津島の黒耀石であることが蛍光X線分析から突き止められている。
当時は氷河期であり今より海面はだいぶ低かったらしいが、それでも島と本土とは陸続きに
はならない。
旧石器人が泳いで黒耀石をとってきたとは考えられないから、この黒耀石の存在は、間接的
に舟の存在を暗示しているといえる。3万年前に舟があり、旧石器人が危険を承知で、海原を
航海し黒耀石をとってきたとすると、それは驚異的な事実といえる。まさに黒耀石は石器人に
とっての「いのち」とでもいうべき存在だったのではないだろうか。
はるか南太平洋に浮かぶ島、イースター島にもたくさんの黒耀石が産出する。世界遺産ともな
ったあの不可思議な石の偶像=モアイ像がある島である。ここでは黒耀石は奇妙な用い方を
されていた。モアイ像の瞳として埋め込まれていたのである。「黒い瞳」を持つ神秘的な偶像は
、いったい人々に何を語りかけたのだろう。
                             ― 堤  隆 ―


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