ショットリーにて

「お茶の時間よ。」と、居間のドアから顔を出してスーザンがいった。
「すぐに行くよ。」「わかった。」ジョンとロジャがそれぞれ2階からこたえた。
ティティは、すでに居間のテーブルにほえづえをついて、窓から見える波止場を眺めていた。その波止場は、川の砂州の中に作られたもので、その川の対岸はなだらかな陸地が広がっていて、その陸地のおしまいは崖となって北海をさえぎっていた。 少し右の方に目をやると、別な川が砂州のところで合流しており、二つの川が交わるところの向こうには、ハリッジの埠頭や灯台を望むことができた。波止場にはたくさんの船が停泊していたけれど、みんなティティの知らない船ばかりだった。
ウナギ族たちはどうしているかしら。わたしたちが帰ってしまったので、きっとまたデイジーが生けにえになるのね・・・・・。ティティは、あのときの野蛮人の踊りを思い出して、自分たちだけがここにいることをちょっと不思議に思った。
「おとうさんとおかあさんはどこ?」と、居間に入ってきたロジャがたずねた。
「海軍にいる知り合いの人がおとうさんたちをお茶によんだのよ。ブリジットもいっしょについていったわ。」と、スーザンがいった。
ジョンたちは、今やショットリーに住んでいた。おとうさんが、この夏からショットリーの海軍本部に勤務することになったので、ウォーカー家はそこからほど遠からぬところにあるこの家を借りることにしたのだった。子どもたちは、波止場や海に面している大きな河口やハリッジの港を見ることが出来るこの家を、たいへん気に入った。ジムがやってくれば、再び鬼号に乗船できるにちがいない。そして、鬼号があれば、野蛮人たちに会いにあの秘密群島へだって行くことができるのだ。
居間のテーブルには、おかあさんがお茶の時間のために用意してくれた、黒くてねばつく汁気たっぷりのケーキが、子どもたちのおなかに入るのを待っていた。
「これ、前にアマゾン海賊たちと食べたケーキにそっくりだね。」と、ロジャがしげしげと眺めていった。
「そういえば、ナンシイたちはどうしているんだろう。ベックフットへ帰ったのはわかったけど、そのあとは何の連絡もないなあ。」と、ジョンがいった。
「きっと、また、何か計画しているのよ。」と、ティティがいった。
「ぼくたちがここへ住むってことは彼女たちだって、もう知っているはずだよ。ナンシイとペギイがここへ来たとき、その話はしたんだよ。ティモシイが別の鉱脈でも見つけたのかもしれないな。」と、ジョンがいった。
「ミルクはここよ。」と、近くの農場から今朝もらったばかりのミルクを入れたポットをテーブルの中央に置きながら、スーザンがいった。
みんなが、お茶とケーキにとりかかろうとしたちょうどそのとき、だしぬけに玄関の呼び鈴が鳴った。小包みです、という郵便配達人の声が聞こえてきた。すでにケーキのかたまりを口に入れたロジャが、「少なくとも、ぼくは出られないよ。」と、くぐもった声で、いった。
「いいわよ、ロジャ、私が取りに行く。先に食べててね。」と、ティティがいって、居間から出ていった。
ジョンとスーザンは、しずかにケーキを食べはじめた。今年の夏は色々なことがあった。北のみずうみの丘陵地帯で探した金や恐ろしい山火事、ティティとロジャが坑道に閉じこめられたこと。思いもかけず横断することになった夜の北海、そのときに見た霧の中の、あのぞっとするビーチ・エンド・ブイ。再び、そのビーチエンド・ブイを見たのは、あの秘密群島へ探検に出かけるときだった。ねばつくケーキをお茶でのどに流し込みながら、ジョンはこの夏自分たちに起きた出来事を思い出していた。


ナンシイからの手紙

「ナンシイからよ。」と、いいながらティティが小包みを両手で持って居間に入ってきた。
「なにか、固いものが入っているみたいだわ。なにかしら。」と、ティティがテーブルにおいた小包みをさわりながらいった。
「ベックフットからだね。とにかく、あけてみようよ。」と、ジョンがいって、包み紙をやぶかないように注意深くひらきはじめた。
小包みの中から出てきたのは、表紙に「六人の探偵たち」と書かれた分厚いノートだった。
「なんだろう、これは。」と、ジョンがいった。それは、子どもたちが学校でよく使うような、ごく普通のノートだったが、中をパラパラとめくると細かい文字がびっしりと書き込まれていた。ドロシアやディックの名前といっしょにジョンたちが知らない名前もところどころに書かれていた。
「手紙が二通あるわ。」ジョンがひらいた包み紙の中から、きちんと折りたたまれた手紙を取り出しながらスーザンがいった。
「やあ、手旗信号じゃないんだね。ナンシイ船長にしちゃあ、ちょっとめずらしいね。」と、スーザンが広げた片方の手紙をのぞき込みながらロジャがいった。
「もう一通はだれからかしら。ああ、フリント船長からだわ。フリント船長から手紙をもらうことって、最初の年以来じゃない?」と、スーザンがいった。ほんの一瞬だったが、ジョンは、北のみずうみではじめてフリント船長を見たときのことを頭に思い浮かべた。
手紙のはじめには、どくろとほねのぶっちがいが大きく書いてあったので、読む人間が知ってさえすれば、アマゾン海賊からの手紙だということがすぐにわかった。
「わたしに読ませて。」ティティはスーザンから手紙を受け取ると、すぐに読み始めた。
「いい?読むわね、
『ツバメ号、アホイ!秘密群島から帰ってしばらくしたら、ドロシアたちから手紙がきたわ。彼ら、今年の夏もブローズへ行ったそうよ。覚えてるでしょ、わたしたちがそっちに行く前にドロシアとディックがこっちに来たっていったのを。ここから帰ってから、あの子たち、すぐにブローズへ行ったんだわ。そのブローズでね、彼ら、たいへんな活躍をしちゃったらしいのよ。詳しいことは、ドロシアが手紙と一緒に記録を送ってくれたからそれを読むといいわ。同封したノートにその記録が書いてあるの。おどろき、もものき、よ。ジムおじは、それを読んで、またあの人に、ことのしだいを教えてやったのよ。だから、わたしたちの本がもう一冊追加されるかもしれないわよ。それにそっちで起きたことも詳しくジムおじには教えておいたから、そのこともたぶん本になると思うわ。この間、あの人がベックフットへ来たとき、ジムおじはあなたたちが経験したことを、ずいぶん長い間、話していたのよ。あの人、とても熱心にメモをとっていたわ。それから、ペギイもよろしくっていってるわよ。ツバメ号、アマゾン号、ばんざい!』」
「フリント船長の手紙にはなんて書いてある?」と、ジョンがいった。
「ナンシイの手紙には、まだ追伸があるのよ。えーと、『ジムおじの手紙はドロシアの記録を読んだ後で読むこと。』、だって。」
子どもたちは、テーブルの上にあるドロシアが書いたノートをいっせいに見ようとしたので、みんなの頭がぶつかってしまった。
「だめだよ、全員がいっせいに読もうとしたって無理だよ。ドロシアが書いた物語ならティティに読んでもらった方がいいと思うな。」と、ジョンがいった。
「あら、ドットが作ったお話じゃないわよ。ナンシイが書いているじゃない、それは記録だって。」と、ティティがいった。
ジョンはティティの顔を見ていった。「ほんとうにそう思うかい。」
「だって、ディックも記録の中に登場しているもの。ドットだったら、自分で作ったお話の中にけっしてディックのことを書いたりしないわ。それに、わたしたちがオランダまであらしの夜を航海したことを聞いたら、ドットとディックだってすぐには本当にしないでしょうね。」と、ティティがいった。
ジョンったら、これはドットの作り話だと思っているんだわ。「六人の探偵たち」なんてすてきじゃない。ひょっとしたら、あの子たち、ものすごい冒険をしたのかもしれないじゃないの。
「ねえねえ、早く読んでみてよ、そのノート。ケーキだってもうなくなったしさ。」と、ロジャがいった。
「まあ、ロジャったら。」と、からになったロジャの皿を見ながら、スーザンがいった。そこで、みんなにはもう一杯ずつお茶がふるまわれることになり、ケーキを食べ、お茶でのどをうるおしたティティがノートを読み始めると、ほかの子どもたちはテーブルの椅子に腰かけてブローズでドロシアたちが経験したというお話に聞き入った。


ドロシアのノートとフリント船長の補足

ドロシアのノートは、たいへんに長いものだった。そして、ツバメ号の乗組員たちは、船流しのぬれぎぬを着せられた三人の男の子たちが、ドロシアとディックの力を借りて、真犯人を見つけだしたいきさつを知った。ティティがその長い物語を読み終えると、スーザンがいった。
「これ、本当にあったことなのかしら。ドロシアっていつだって、物語のことを考えているじゃない。『沼地方の無法者』だって、まだできあがっていなかったはずよ。完成させる前に新しいお話を書き上げちゃったんだわ。」
「でも、フリント船長があの人に話したのだったら、きっと、本当にあったことに違いないよ。今までだって、ぼくたちの身の上に起きたことは全部本当のことだったじゃないか。」と、ロジャがいった。
「とにかく、フリント船長の手紙を読んでみようよ。」と、ジョンがいった。
フリント船長の手紙には、Dきょうだいがブローズで経験した出来事は本当であること、そして、フリント船長があの作家にブローズでのできごとを詳しく話したことなどが書かれてあり、他にもその作家のことについてこまごまとしたことが書きしるしてあった。
「あっ、あの人、今はここの近くに住んでいるらしいわ。ショットリーにホークステッド・ホールという家があるのかしら?そこに住んでいるんですって。」と、ティティがフリント船長の手紙を見ながら言った。
「地図で調べてみよう。」と、ジョンがいって、この地方が載っている大きな地図を本棚から引っぱり出してきた。地図はテーブルのうえに広げられ、ついでに、お茶のカップと今はもう子どもたちのおなかにはいってしまったケーキがのせられていたお皿も片づけられた。
「えーと、ホークステッド・ホールだって?ああ、あった。えっ?こりゃ、おどろいたなあ、ここからあまり離れていないところにあるぜ。いつから住んでいるんだろう?」と、ジョンがいった。
「あの人はね、そこにことしの4月から住んでいるらしいわよ。でも、その前は川向こうのブローク・ファームというところに住んでいたって書いてある。」と、ティティが手紙を見ながらいった。
「それにね、あの人の奥さんってずいぶんやかましい人らしいわ。わたしたちのことを書いた物語だって、今までになにかとケチをつけていたらしいわ。」
「へーえ、まるで大おばさんみたいな人だね。」と、ロジャがいったので、みんなは、去年見たあのぎょうぎょうしい大おばさんの姿を思い出した。
「でも、意外なことにこのDきょうだいたちの物語については、大変にほめているんですって。骨組みがしっかりしてるって。」と、ティティがいった。
フリント船長の手紙によれば、その作家は、来年には湖の近くに越してくるだろう、そしてそこはあのヤマネコ島のすぐ近くにあるザ・ヒールドと呼ばれる家になるだろう、ということなども書いてあった。
「ヒールドだって?それって、ぼくたちが荒野で霧に迷ったときに若いビリーが働いていた森の名前じゃないか。」と、ロジャがいった。
「あの場所とはちがうところだよ。湖のこっちがわにも同じような名前があるんじゃないかな。」と、ジョンが北のみずうみの地図を頭に浮かべながらいった。
「じゃあ、それまではこの近くにいるのね。」と、スーザンがいった。
「会いにいきましょうよ。どんな人なのか見てみたいわ。」と、ティティがいった。
「でも、きっと、今はいないよ。ナンシイの手紙からすると今はきっと北のみずうみにいるんじゃないかな。フリント船長と一緒にさ。きっと、釣りでもしているんだよ。」と、ジョンが遠くを見るような目つきをしていった。あのみずうみで釣りがしたくてたまらないのに違いなかった。
「ちがうわ。フリント船長とあの人は、今はミーオン川というところにいるのよ。そこで釣りをしているんだわ。」と、手紙をよく読んでからティティがいった。
「ところで、三人の子ってなんていう名前だっけ?ほら、船流しの犯人にでっちあげられそうになった子たちのことだよ。」と、ロジャがきいた。
「ジョーとビルとピートよ。『死と栄光号』の乗組員ね。トム・ダッジョンという人もいるわ。オオバン・クラブのリーダーね。この人、Dきょうだいたちがはじめてブローズに行ったとき、悪者の船をだまって流しちゃった人よ。」と、ティティがいった。
「その子たちの姓はなんていうんだろう?ドロシアのノートには書いてなかったね。」と、ロジャがいった。
「ここに書いてあるわ。」と、ティティが持っているフリント船長の手紙を横から目で追っていたスーザンがいった。
「ジョー・サウスゲイト、ビル・ジェンキンズ、ピート・ウッズ。」と、スーザンが声を出して読み上げた。
「彼ら、普段はあまりごちそうを食べちゃいないね。」ずけずけとロジャがいった。
「大きなカマスを釣り上げたあとで食べた食事を見てごらんなさいよ。ものすごいごちそうよ。クリスマスプティングまで食べた、と書いてあったじゃない。」と、ティティがいった。
「でも、ウナギのくんせいはあまり食べたくないな。あの子たちだって、結局すてただろう?シチューにすべきだったんだよ。」と、ロジャがいった。
「シチューは、トムのおかあさんが作ったから、きっと三人はトムのためにくんせいを作ってあげたのよ。」と、スーザンがいった。
「ウナギ族といっしょに食べたシチューほどおいしいウナギのシチューはないよ。」と、ロジャがいったので、みんなはツバメ島でウナギ族やアマゾン海賊たちと食べたウナギのシチューを思い出した。
「食べ物のことはいいけど、なぜ、ドロシアは彼らの姓を記録の中に書かなかったのだろう?」と、ジョンがいった。
「彼女、きっと、三人はひとつのユニットと考えているんだと思うわ。ほら、いつも『死と栄光号』に乗っているでしょ、この人たち。」と、ティティがいった。
「ふーん、じゃあ、『六人の探偵たち』<The Big Six>って、どういう意味があるんだろう?」と、ジョンが頭をひねった。
「ビッグ・ファイブと呼ばれる人たちがスコットランド・ヤードにいるのだそうよ。オオバンクラブは、このとき六人だったから、ドットは自分たちのことをビッグ・シックスといったんだわ。」と、ティティがいった。
「それにね、この物語の題名については、他の案も色々とあったみたいよ。"Hot Water"とか"Not Us"とか"Coots in The Trouble"とか"Who The Mischies?"とかいう題名をはじめのうちは候補にしていたそうよ。」と、ティティがつづけた。
「それは誰が候補にしていたんだい?ドロシアかい?」と、ジョンが聞いた。
「いいえ、あの作家よ。でも、ドロシアが"The Big Six"っていったので、結局はその名前になったんでしょうね。でも、出版社は"The Death and Glories"としたがってるそうよ。」と、ティティがフリント船長の手紙を読んでこたえた。
「本の名前が『死と栄光号』だって?それじゃ、まるで戦争のことを書いたみたいじゃないか。その出版社の連中はみんなまぬけづらだね。」と、ロジャがいった。スーザンでさえ、そのとおりだと思い、みんなは、口々に出版社のセンスのなさをけなした。


ジョージ・オードンの動機

「それにね、ドットによるとこの物語って31章からなりたつ予定だけど、あの人はこれを全部で32章にして書き上げるつもりらしいわ。」と、ティティがいった。
「本当の作家って、なにを考えているのかわからないものね。」と、スーザンがいった。
「この人、友人から探偵小説を書きなさい、ってしきりにいわれていたらしいわ。だから、ドットたちがこういう経験をしたのは、渡りに船だった、というわけね。わたし、"Death Under Sail"という探偵小説知ってるわ。」と、ティティがいった。
「ブローズを帆走する船が殺人事件の現場となった探偵小説よ。最初の年の冬にフリント船長に連れていってもらったブローズで毎日を過ごしたような貨物船が出てくるの。最後は、名探偵が犯人の名前をいい当てるのよ。そういえば、殺された人、ロジャという名前のお医者さんだったわ。」
「よせよ、変なこというの。でも、ブローズの貨物船というと"wherry"ってやつだね。あそこの船はみんなちょっと変わっていたよ。ひしゃげたような船体をしていたよね。」と、ロジャがいった。
「川にかかっている低い橋をくぐり抜けなきゃならないからね。どうしてもああいう形になってしまうんだろうな。しかし、このジョージって人はなんだってまた、船なんか流したりしたんだろう?シャックルまで盗んだりしているじゃないか。」と、ジョンがいった。
「そこがちょっとなぞのところね。ノートには彼の動機までは詳しく書かれていないから。でも、たぶん、オオバンクラブの人たちがじゃまだったからじゃないかしら。ほら、彼らって、鳥のたまごを守るために川を行き来していたでしょう?えーと、なんて名前の鳥だったかしら、ああ、サンカノゴイね。その鳥のたまごのことで、ジョージは死と栄光号の三人を恨んでいたらしいもの。鳥のたまごを奪って誰かに売りつける人間にとっては、おもしろくない存在だったんだわ。だから、彼らのせいにして、二度と川へ出させないようにたくらんだにちがいないわ。」と、ティティが考えながらいった。
「なんで、ぼくたちにもこんな出来事がおこらないのかなあ。ぼくたちだって、こんな犯人くらいすぐ捕まえることができるのにさ。」と、ロジャがいった。
「なにいってるのよ、オランダへ行ったことだけでもたくさん。」と、嵐の夜を思い出しながら、スーザンがいった。他の子どもたちはあのときのスーザンの様子を思い出してしまったので、ちょっとのあいだ、話しがとぎれてしまった
「でも、きっとわたしたちにはこれからもっと色々なできごとがおこるんだわ。わたしにはわかるもの。・・・・あっ、おとうさんたちが帰ってくるわ。」と、ティティがいった。
波止場までつづいている道路に、おとうさんとおかあさんがあいだにブリジットをはさんで、みんなで手をつないで歩いてくるのが窓から見えたのだった。
「今晩の食事はなに?」と、だしぬけにロジャがきいた。
「砲弾のフライよ。」と、スーザンがこたえた。
「やったあ、ばんざーい!」他の子どもたちはいっせいにさけんだ。

波止場には、赤い夕日がふりそそぎはじめていた。そして、道を歩いている三人には、かすかだけれども、家にいる子どもたちの喚声が聞こえていた。
ハリッジの灯台が、長く伸びた三人の影のはるか向こうで光っていた。
Swallows, Amazons & D's For Ever !