ランサムのこだわり

帆船をこよなく愛し、船に関してはくどいほど正確な描写をしなければ気のすまないランサムの性格から考えて、恐らく、彼は、この「スペインの淑女たち」の歌詞の矛盾には我慢できなかったのでしょう。
経験則上、イギリス海峡では、南西の風が吹くことが多いことを知っていたランサムは、・・・・・この海峡をくだるってのに、東風をむだに吹かしとく手はない。東風はめったに吹きません。「ヤマネコ号の冒険」162ページ ・・・・・帰港のとき、南西の風にことかからねえ・・・・・「ヤマネコ号の冒険」182ページ
南西の風が吹いていたのでは、ドットマンポイントなどの岬を海上から望むことが出来ない、ということは重々承知していたと思われます。3番の歌詞を尊重しようと思えば、それに矛盾する追い風のことを唱った2番の歌詞を、ランサムは敢えて自分のサーガでは切り捨てたのです。サーガの登場人物にこの2番の歌詞を歌わせることはランサムには出来なかったのでした。「ヤマネコ号の冒険」のみならず、他のランサムサーガでもこの2番の歌詞は全く無視され、紹介する機会すら与えられていません。

ランサムは、「『スペインの淑女たち』は、かく唄うべし。」という主張をピーター・ダックに言わせたのです。ドットマンやレームヘッドなどをスペインからの帰港時に見ることができるのは、めったにない北東の風が吹いた場合、つまり、間切らなければならない向かい風のとき、であったはずだ、と。


そうだ。」と、ピーター・ダックがいった。「その歌の中の船乗りは、むかい風をついて帰ってきたことがよくわかる。さもなきゃ、アッシャントとシリー諸島との間が三十五リーグだなんてことをうたうはずはねえだろう?もしこの船乗りがアッシャントの灯台のあかりを遠くに見て追い風でスペインから帰ってきたんなら、シリーのことなんか思いつくはずはねえ。それから、プリムス湾へはいるはずもねえ。そんなことはねえとも。北東の風をついて骨折ってイギリス海峡をのぼってきたにちげえねえ。だからこそ、そこにこられたんだ。その船乗りたちは、一間切りごとに、どこまでじぶんたちが進んだか知りたいんで、ドットマンやレームヘッドやそのほかの岬をさがしていたんだ。もし追い風でやってきたんなら、聖キャセリン岬のほかにさがすものはねえだろう。」  「ヤマネコ号の冒険」530ページ


Swallows, Amazons & D's For Ever !