帰省の日



なにかを感じて欲しい一品です


 電車がガタンと揺れる。少しうつらうつらとしていた私は、その揺れで完全に目が覚めた。

 もうすぐ目当ての駅に着くが、することもない。仕方が無いので窓の外を見る。

 久しぶりの帰省。十年ぶりになる。私が家を飛び出してから。

 ……。

 私住んでいた町は、とても都会とは言えず、周りは田んぼや山に囲まれていた。

 家々はぼろぼろの木造立てで、屋根にトタンを張っている家もところどころに見えた。

 すぐ近くの駄菓子屋では悪ガキ達がよくお菓子を買いに来ていて、

駄菓子屋のたった一人の店員であるお婆さんが、ちょっと席を離れると

悪ガキ達は決まって、ガムや飴なんかを2・3個、ポケットの中に無断で突っ込んでいた。

 私の家は農家の家系で、よく家の仕事−−例えば田植えなど−−を手伝わされたものだ。

 私は悪ガキ達と一緒に駄菓子屋の物を万引きするようなことはしなかったが、しかし、遊びはした。

家の手伝いが終わると、酔っ払いがときどき座っている公園の近くの木々の枝に登ったり、

他にもかくれんぼや鬼ごっこ、ケイドロという遊び−−これも一種の鬼ごっこだが−−なんかをして、

夕方まで遊んだ。

 けれど、十年前。私は家の仕事を継ぐのなど馬鹿馬鹿しく思い、家の反対を押しきって上京し、

都会で働くことにした。

 その間、手紙などで多少家とのやり取りをしたが、ほとんど連絡をしていなかった。

 けれど、私も28歳となり、仕事の方も落ち着いてきたので、休みを取って帰省することにした。

 ……ガタン。シュー。

 そんな音がして電車が止まる。

 思い出に浸っているうちの目的地に着いたのだった。

 ……。

 プラットホームから家に連絡をいれると、私は家まで歩くことにして駅を出、そして、驚いた。

 ……これが私のかつて住んでいた田舎だというのか?

 田んぼの面積はほとんど半分くらいに減り、山は大部分が灰色のコンクリートに変わり、

家々はコンクリート建てにせまぜまと建てかえられている。

 私はあの駄菓子屋や公園にも走り、驚愕した。

 駄菓子屋はコンビニのチェーン店へと変わっていた。

 木々のたくさんはえていた公園からは、ほとんど木が消え、何かの記念像などに変わっていた。

 私は町中を走り、その変化にただ驚いた。

 そして、10年という歳月がどれほど長かったのかを感じ、止めど無く涙があふれた……




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