すれ違い



ま、よくあることですよね♪



「あ……」

 彼の呟きが聞こえた。あたしはそのちょっと驚いたような声に尋ねた。

「どうしたの?」

 って。

「いや、別に……」

「何よ。はっきりしないわねー。男なら男らしくびしっ、と言ってみなさいよ!」

「って言われてもね」

 彼は頭を掻いて困ったように言った。いつもこうなのよね。この人は。

 デートに誘われて、あたしはウキウキして来たのに、結局彼ったらいつも通り。もっとぐいぐい引っ張ってくれたっていいのに……

「せっかくのデートなんだよ?」

 私は頬を膨らました。

「なのに、あなたがそんなに弱気だと、あたしだってどうしたらいいかわかんないよ……」

「ごめん……」

「謝らないでよ」

「ごめ……あ……」

 あたしはキッと彼を睨みつけた。

「結局そうなのよっ。あなたは自分が失敗して、誰かに嫌われたくないんでしょ?」

 彼が目を伏せた。あたしは続ける。

「だからそうやって謝って、誤魔化して。そんなことばっかなのよ!」

「………」

「そういう曖昧な態度がどれだけあたしのこと傷つけてるかわかってる?」

 涙があたしの頬を伝うのを感じた。けど、それでもあたしは喋りつづけた。

「もっと、はっきりしてよ……あたしがあなたのこと、頼っちゃうくらいにさ……」

 とんと彼の胸に額をつける。どくりどくりと彼の胸の鼓動が聞こえた。

「わかった……」

「え?」

「はっきり言うよ。僕」

 彼はあたしの目から涙を拭うと、何か吹っ切れたように言った。

「あの……」

「うん……」

「あなた、誰ですか?」

「は?」

 あたしは目を丸くした。

「あの、さっき『哲也君待った?』って言ってましたけど、僕の名前は鈴木達郎です」

「うっそ」

「や、ほんとですってば」

 えーと。つまり……これは……

「あ、美沙ちゃんっ。そんなとこで何してるんだよ!」

「え?」

 後ろを振り向くと、そこには、この鈴木さんとやらとは似ても似つかない姿の人が手を振っていた。

「あ」

 ぽんと手を打った。

「すいません。人違いでした」

 にこりと笑ってあたしはそそくさと立ち去ろうとした。

 しかし、

「ちょおっと待てえええええ!」

「すいませえええええん!!」

 だって後ろ姿にてたんだもぉん!

 しょうがないよね? えへへっ。

 なぁんて誤魔化してる場合じゃないあたしなのでした。

 とほほ……




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