あるウサギの話
このウサギ……
なんかやだなぁ……
我輩はウサギである。名前はあるにはあるがここで言う程のものではない。平凡な名だと言っておこう。
ある日ペットショップで買われ、飼われ続けて今に至る。
我輩の主人と言うべき人間はいない。いやいるが我輩は認めない。
なにせ、いつか家族旅行に出かけ、そのとき餌をたんまり補給してくれなかったせいで餓死しかけたという苦い思いでもある。
腹も減り水も減り、どうしようもなくなったので暴れたところ、餌箱がひっくりかえって我輩の頭にすっぽりとはまってしまった。
あれにはほんとに驚いた。そこで我輩を飼っている家族の一人が帰ってきて何とかしてくれなければ本当に餓死していた
ことであろう。人間とはかくも困ったものである。
最近のこととなるのだが、我輩の毛が抜ける。生え変わりの時期がやってきたのである。
こうやって毛を生え変わらせて我輩達は温度の変化に対応するのだが、人間とはそれを理解しない。その抜ける毛をうっとうしがって
掃除機を我輩に近づけてくるのだ。我輩の繊細な心臓が早鐘を打った。もしこれが止まってしまったらどうしてくれるのだ。
人間はいつも自分たちの都合しか考えていない。我ら動物は人間と違って服などないのだからこうして体温を調節するのだ。
まあ、服などあったところで我輩はあのように俗なものを着るつもりは毛頭無いが。
どんなに人真似をしたり流行に合わせたところで本人に似合ってなければ意味が無いだろうに。だいたい流行に合っているからといって、
似合ってもいないのにそれを似合ってるだ格好良いだという周りの者もどうかしてる。こういうことは本人のためにも
似合ってないといってやるのが友情だろう。
まあよい。しかし我輩はこんなにも日本の過去現在未来を考え案じてやっているというのに、我が飼い主は失礼にも
「あんたは悩みがなくていいわね」
だとか、
「お前はなんも考えてないなぁ」
などと言ってくる。なんたる無礼。いつか噛みついてやらねばなるまい。もしくは引掻いてもいい。
ん?
おお、食事の時間か。よしよし。ちょうど腹も空いていた所である。よく気がきくではないか。
おや。そういえば何の話だっただろうか?
まあ良い。食事が済むまで待っておれ。
………。
…………。
……………。
ふぁああ。飯を食ったら眠くなってきた。
飼い主の一人が「こいつ欠伸したぞ」なぞと騒いでいるが、眠いものは仕方ない。よって我輩は眠ることにする。
話の続き?
よくよく訳のわからんことを言う。だいたい我輩は人間ではないのだ。なぜこれ以上人間なぞに話をしてやらねばならん。
我輩は寝る。
まあ、また機嫌の良い日――ああ、もちろん我輩のだぞ。――に訪ねてくるが良い。
ではさらばだ。
……ZZZ。
……ZZ。
ん?
また飯だと?
しかたない。食ってやるとしよう……。
………。