タイセツナモノハイツモ



超ラヴ×2モノです……Vv


 
  なんで、あんなこと言っちゃったんだろう?
  私は涙をぬぐった。夕暮れに染まっていく街。公園のブランコに腰掛けて、私は独り、後悔していた。
『大嫌い』
  思ってもない言葉。絶対彼を傷つけた。
  涙がぽろりと私の目からこぼれおちる。
「……ゴメンネ」
  呟く。誰もいないこの場所で。
  彼の前ですぐ言えれば良かった。なのに私は逃げ出して。こうして、惨めな気持ちで泣いている。
  きっかけはホントに些細なことだった。
  彼とデート中に、彼のクラスメイトの女の子にであった。彼はその娘と楽しそうに話してて、私は独り蚊帳の外で
……その娘と別れてから彼に怒った。
『この浮気ものぉ! もう知らないんだから!』
  ただの嫉妬。嫌な私……。
  『待てよ』と私を引き止めようとする彼の手を振り払い、『大嫌い!』と言
った私。
  そのときの彼の顔、忘れられない。少し怒ったような、そして哀しそうな瞳。私はその瞳に耐えられずに逃げ出した。
  なんであんなこと言っちゃったんだろう?
  ぽつりぽつり、雨が降り出した。いつのまにか黒い雲が夕暮れの空を覆い隠していた。
……まるで私のココロを表してるみたい。
  自嘲するように口元に笑みが浮かんできた。
  ……ダメ。
「ダメ、だよぅ……」
  涙が、雨と一緒に流れていく。キィ、というブランコの音がやけに悲しそうで、サァサァと静かに降りゆく雨の音が本当に寂しそうで、
街にポツポツと点いていく灯りが暖かそうで……胸が痛い。ココロが、痛い。
「寂しいよぅ……」
  呟いて後悔した。口にすると孤独感が増した。
  ただの嫉妬でイタズラに彼を傷つけて、今度はこうやって独り自分が傷ついてる……。
「馬鹿だな。私って……」
  呟いた。返事がないのはわかってる……
「ホント、馬鹿だな」
  ……え?
  私はびっくりした。
  さっきのは、私の声じゃなくて……。
「ほら、こんなところにいると風邪ひくぞ」
「あ……」
  見上げると、彼が傘を差し出すようにして立っていた。
  ぐ、と詰まって言葉が出ない。言いたいこと、言わなきゃいけないことはたくさん、たくさんあるのに……。
「ほら、立てって」
  彼がびしょ濡れの私の手を引っ張り挙げる。私はされるがままに立ち上がる。
  お礼を言わなきゃ。そう思ってもでてこない。
  それよりも謝らなきゃ。声が出ない。
「……お前な」
「え?」
  彼が諭すように言う。
「オレがあんなのに色目使ったりとかするような奴じゃないってわかってるだろう?」
「……うん」
  街中でのことを言ってるのはすぐにわかった。
「それでな」
  彼は傘の中に私を招き入れて、続ける。
「もっとオレを信じろよ」
「………」
  ここで素直に「うん」と言えたらいいのに。なんて私は意地っ張りなんだろ。
代りに涙だけが溢れ続ける。ただ、川のように悲しみが流れ出る。
  そんな私を、不意に暖かい圧迫感が包み込んだ。傘がふわりと落ちていく。
  彼は、私を強く抱きしめていた……。
  少し、静かで、雨の音がしない時間が流れてから、彼は吐き出すみたいに叫んだ。
「オレが好きなのは……愛してるのはお前だけなんだよ!」
  言葉が、でなかった。
「オレはお前じゃなきゃだめなんだよ……」
  涙が、冷たい涙が暖かくなる。
  ココロが痛んで、でも温かさで一杯になる。
  私は、
「ゴメン、ナサイ……」
  そう謝った。素直に言えた。
「………」
  彼はなにも言わずに腕の力を強くする。
  いとおしそうに私を抱いて、一生懸命に呟いた。
「……ありがとう」
  私はその温もりにほっとする。
  同時に、彼の震えに気づく。どんなに私を求めていてくれたかに、気づく。
  彼はいつでも私のことを考えていてくれた。
  彼は私の信じるべき人。
  そして、一生涯愛すべき人。
  私も彼をそっと抱きしめた。すぐそばにあるその顔をじっとみつめ、口を耳元に近づけて、
「ありがとう……」
  ささやいた。そして、ちょっとだけ、その唇を頬の方に降ろしていった。
  雨がやんで、奇麗な星空が見えた。





小説のお部屋の入口へ戻る

遊戯室の入口へ戻る

ホームへ戻る