日の光は柔らかく、丘を抜ける風は肌をやさしくなでていきます。緑の絨毯は寝転んだ 体をやんわりと抱きとめてくれるでしょう。春の丘は誰をもやさしい気持ちにしてくれま す。空にはぽっかりと、まるで仔犬のような白い雲。 そんな、のどかな空気がただよう丘に、少年は一人寝そべっていました。 「……」 中学生くらいでしょうか。学校の制服をきていますが、丘の上には学校はありません。 ただ、何をするでもなく、かばんを放り出して空を眺めています。ここは空を眺めるのに はまたとない場所です。遮るものが無い空は広く遠く続き、青い姿を見せています。少年 は飽きることなく空を見つづけていました。 「こら、学校をさぼっちゃいけないぞ?」 そんな時、少年に声をかける人がやってきます。少年と同じくらいか、それより年上と いった感じの少女です。腰に手を当てて、しかりつけるように少年をのぞきこんでいます。 「別に……学校なんて行っても意味ないし……それに君だってサボリじゃないの?」 やや目線を上にもっていき、少年は少女に言いました。 「残念。私は今日この町に引っ越してきたの。だから学校は明日からなの」 「ふーん」 少年はそれきり少女に興味を無くしたようで、再び空を眺めます。そんな様子に少女は 首を傾げ、おもむろに少年の隣に寝そべると、同じように空を見上げました。 「ここ、いいとこだね。風は気持ちいいし、空気は綺麗だし。それに空がこんなにも近い」 両手を前に突き出して少女はそう呟きました。そんな少女を横目でみて、少年は苦笑し ます。 「君、よく変だって言われない?」 「失礼ねぇ。私が変ならあなただって変じゃない」 「そう? まぁそうかもね」 頬を膨らませる少女を見て少年は笑います。つられるようにして、少女も笑いだしまし た。クスクスとくすぐったそうに。 「それじゃ、お互い変どうし友達になりましょ。こっちに来て、君がお友達第一号だよ」 「……それは光栄なことで」 差し出された少女の手を見、微笑む少女の顔を見て、少年はしかたなし、といった表情 で手を握りました。少女は繋がれた手を軽く上下に振って離します。 「よかった。こっちに来て友達できなかったらどうしようかと思ったの。ほら、ここって いな……ううん。とってものどかな町じゃない?」 「別に田舎でいいんじゃない? たぶん皆思ってることだし」 「そう? でも私はこの町が好きになれそう。こんな良い場所があるんだもん」 少女は猫のように体を伸ばすと、コロコロと体を転がして緑の絨毯の上を転がります。 「ここで寝そべってると、まるで空に包まれてるみたい」 その言葉に少年は少し驚いた顔をします。それに気づいた少女は、少年の方を見て拗ね た表情をしました。 「なによ。いいじゃない、そんな感じがしたんだから。どうせ私は変ですよーだ」 「いや、そうじゃなくて、僕がいつも思ってることだったから驚いただけ」 「そ? でもそれだけじゃ許してあげないもん」 「?」 わからない。そんな顔をして少女をみると、少女は目を細めて笑いながら言いました。 「町を案内してよ。この町で一番最初にここに来たから、まだ町の中全然みてないの」 「……それくらいなら、お安いご用さ」 「じゃぁ約束」 差し出された少女の細い小指に、少年も自分の小指を絡めました。 「ゆーびきーりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます。ゆびきった!」 小指を離して少女が微笑みます。今度は少年がつられたように笑います。やや皮肉っぽ いでしたが、楽しそうに。 これが少年と少女の出会い。これから紡がれる物語の始まりです。 |