シュラ


闘いの場において常に修羅の心を忘れるな。
私の師匠の言葉なんだけど、魔術師のくせに何戦士みたいなこと言ってんのかしらねぇ……
とにかく戦う時必要以上に感情に流されるなってことらしいわよ。



俺はグレートソードで思いきり目の前のゴブリンを切りつけた。

血しぶきをあげずに倒れたそいつは案の定、木の根が変形したヤツだった。

後ろから気配を感じ、俺は振り向きざまに横薙ぎにする。

「るああああああぁぁっっ!」

バキリ、と木の幹が折れるような音をしてそいつも元の姿へと戻り消えていく。

「ユーロ! そっち何体やった!?」

「こいつで五体目だ! そっちは!?」

「同じっ、今五体目やったわよ!」

セシリアが疲れたように息をきらせつつ叫ぶ。

まあね魔法を連発で撃ってりゃな……

「おおぉいおいっ、よそ見してると危ないよっ。うりゃ!」

俺の後ろの方で鈍い音がする。

振り向くと、チックルがゴブリンを殴り倒していた。

「おっとすまん。ありがとよ、チックル!」

「へへへ、でもまだ死んでないからとどめ刺しといて!」

そう言いながらチックルはほかのヤツの所へ行く。

チックルに殴られて倒れていたゴブリンがゆっくり起きあがってくる。

しかし、それを許さず俺は頭からそいつを切り裂いた。

これで六体!

しかしチックルのヤツ、なんでナイフで切らず殴ったんだ?

まあいいか……

残りは後五体程度だ。

しかし、こいつら多少弱いな……

俺の一撃はともかく、セシリアのエネルギーボルト一発食らっただけで倒れるなんてな。

セシリアの魔術師の力はまだ一撃必殺には程遠いはずだが……

「うわわわわっ」

「ちょっ、なによコレ!」

チックルとセシリアの声がする。

俺はそっちを向く……っ、なんだありゃ!?

「ぐぎがぎばばばばがぁぁあぁぅうぅぅぅぉぉぉぉおぉっっっっ!!!」

奇妙な声、いや音を出しながらゴブリン達の姿が変容していくっ。

俺はチックル達のそばへ寄った。

「なんだよ、こいつは!?」

「知らないわよっ。あと四・五体だって思って一体ぶっ放してやったらいきなり……」

そう言ってる間にもゴブリン達は変容し一つになっていく!

「ユーロ……なんかあれ、五体ひっついたにしちゃ小さくない?」

チックルが言った。

……本当だ。少し小せえな。てっきりでかい化けもんになるんだと思ってたが……

「っていうか今のうちにやっちゃわないかい?」

「まて、チックル。むやみに刺激したらどう作用するかわからねえ……」

「でもさ……」

「話し止め! ……どうやら終わったみたいよ」

俺とチックルは同時にそっちを向く。

そこには一体の、人型の化けもんがいた。

表情のない仮面のような顔。四本の腕と脚。その腕の左右に一本ずつ剣を握っている。

そして、その身体中には木目が浮いている。

「強いな、人間。私はシュラ。本体を護るものの一人だ」

言葉を喋った!?

どうやらそれなりの知能を持ち合わせてるみたいだな……

そこでセシリアがそいつに声をかける。

「一人ってことは、まだいるの? 本体守ってンのが」

「ああ」

そいつの答えはあっさりしてたが……めちゃ厄介だな。

俺のカンがこいつ、シュラを強いと告げている。

こいつ並のがまだいるってことか?

「どうすんだい、ユーロ」

「どうするもこうするも、こいつ倒すっきゃねーだろっ」

俺はグレートソードを構える。

「一ついいか」

シュラがそこで俺を止める。

「なんだよ」

「私はお前と一対一の戦いをすることを望む」

「はあ?」

この木偶人形、何言ってやがる。

シュラは俺を剣で指して俺にタイマンを申し込んできた。

「何いってんだい! 二刀流に剣一本でってのは辛いんだぜ!」

チックルがそう叫んだ。

が俺は、

「まて、チックル。……その勝負、受けるぜ」

「まじで!?」

「ちょっとなんかあいつ強そうよ。止めとけば?」

「まあいいじゃねえか。どうせ俺は怪我もしてねえしな」

「はあ、仕方ないわね……」

そう言ってため息をつきつつセシリアはシュラの方を向く。

「こいつに今魔法かけるのはいいわよね?」

「ああ」

シュラは短く答えた。

「ってことで、硬くしとくわよ」

セシリアは俺にプロテクションをかけた。

ブロードソードにエンチャント・ウエポンをかけるのも忘れない。

「ありがとよ」

「いいけどね……もう私は魔法使えないわよ。今のも魔晶石で両方出したし……」

「おいらがコモンルーン買っときゃよかったねぇ」

「ま、いいさ。もともとサシの勝負だしな。もうハンデももらったし、コレ以上援護は要らない」

「あっそ。ま、適当に頑張ってくれば」

「ユーロ、がんばれよー!」

「へいへい」

俺は前へ出た。

「待たしたな」

「いや」

俺はシュラに話しかける。

「しかし、どうして俺に一対一の勝負を申し込んだんだ?」

「私は強いヤツとは一対一で全力の戦いをしたい」

「つまり、俺が強いと思ったわけだ」

「ああ」

「そりゃどうも。俺もあんたは強いと思うぜ」

「そうか」

俺とシュラは同時に剣を構えた。

「では、行くぞ!」

「おっしゃあああぁぁっっ!」

俺はシュラめがけて剣を振り上げた。