言葉の魔剣




「まったく…みんな薄情なんだから…」

僕はつぶやいた。

「ちょっとくらいスピード落として歩いてよ…」

まったく…ため息でちゃうよ…

「うっさいわねぇ。ぶつぶつ言ってんじゃないわよ!

あんたは荷物持ちなんだからおとなしく荷物持ってりゃいいのよっ!」

「いつ決まったんだよ…そんなこと…」

「前からよっ!!」

「セシリア…それはいいすぎじゃ…」

「ミスティは黙って」

「うん…」

うう…相変わらずヒドイやつ…



                        てくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてくてく

「はぁ…」

ため息が出てくるよ…ホント…

「ん?」

ユーロがこっちを見てるのに気づいた。

「どうかした?」

僕はユーロに話し掛けた。

「ああ…お前の剣な…」

「うん」

「ちょっと見せてくれないか?」

「?…いいよ」

僕はユーロに僕の愛用しているブロードソードを渡した。

一体僕の剣がどうしたんだろう?

あ!!

いつのまにか、好奇心旺盛な仲間たちが集まってきているっ!

しかもキラキラと目を輝かせながらユーロを見ている。

「ディクス君の剣がどうかしたのかい?」

「実は金目のモン?」

ファーストとチックルが問う。

けど、その言葉にユーロは返事をしなかった。

ユーロは剣をさやから抜いて、まじまじと剣を見ている。

と、ユーロが口を開いた。

「これな…」

『うんうん』

僕らは期待に満ちた目で彼ににじりよる。

「…どこで見つけたんだ?」

『え?』

期待していた答えと大分違ったため、僕らは一斉にコケかけた。

いや…

「どあ!」

「きゃっ!」

「むぎゅっ!」

「いた!!」

「ぎゃぁっ!」

コケた。

「いたたたたた…」

一番上にいて、あまり衝撃がなくて無事だった僕は、ゆっくりと立ち上がった。

「大丈夫か?お前ら…」

「うん。僕は大丈夫だけど…」

『きゅう…』

僕とユーロ以外、みんなばたんきゅーである。

うーん、一番下のチックルなんて白目向いてるし…

そんなことを考えていると、突然可愛らしい声が聞こえてきた。

「ふああぁぁぁぁ…よく寝たぁ…」

ユーロのふところから、眠そうな顔をしたサニーがゆっくり飛んで出てきた。

さっきから顔見せてないと思ってたら、寝てたんだね。

「…何やってんの?コイツら…?」

サニーは呆れた顔でそう言った。

ユーロは苦笑でその問いに答えると、僕の方に向き直って言った。

「で、ディクス。これをどこで手に入れたんだ?」

地面に倒れてるのはもうほっとこう。

この剣をどこで手に入れたか。

それは…

「家にあったんだよ」

「家に?」

「そう…家の宝物庫から取ってきたのさ。

家が…乗っ取られる前にね」

「乗っ取られる…?家が?」

「うん。まぁね…」

僕の家は没落したって、前に言ったと思う。

正しくは、僕の両親が死んで、その後すぐに家を家来Aに乗っ取られた。

だから『僕の家』は没落したんだ…

嫌なことを思い出して、ため息が出てきた…

「…そうか」

ユーロは、それ以上何も言わず、微笑みを僕に向けて、また考え込んだ。

「ねぇねぇ、ディクス。一体どうしたの?」

サニーがわからない、といった様子で聞いてきた。

「うん、僕の剣になんか気になることがあるんだって」

「ふぅん…」

わかったかな?

なんかよくわかってないような感じだ。

そこでユーロが口を開いた。

「なぁ。この剣になんか伝承とか言い伝えとかないか?」

「伝承や言い伝え?」

あったかなぁ…?

…あ、そういえば。

「この剣、うちの御先祖様が使ってたらしいよ。

なんでも、この剣で100体以上の悪魔を倒したとかなんとか…」

「なるほどね…」

「なにがなるほどなのぉ?ユーロぉ」

サニーが全然わからないという風にユーロにきいた。

僕も聞きたい。

僕はユーロの口が開くのを待った。

……………

ちょっとしてユーロが口を開いた。

「これは…魔法の剣だ」

…え?えぇ??

『ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!?』

                                  ずべしゃっ!

僕はずっコケた。

…いつのまに復活したんだよ、君たち…

「さっきのはホントなんかっ?ユーロっ!」

チックルが興奮しながら言った。

「ああ、この剣には上位古代語が刻まれている」

「よ、読めるの?」

「まぁな、共通語と俺の生まれた東方語をあわせて、6種類は話せるし、

5種類は読んだり書いたりできるぞ」

す、すごい…

「あれ?じゃあなんでセシリアさんは読めなかったんだい?」

そういやファーストの言うとおり、彼女は魔術師だから読めるんじゃ?

「知らないわよ。あんたが剣を抜いてるのなんて見たことほとんどないもの」

「え?」

どういうことだろう?

「あんたの剣のさやには古代語もなにも書かれていないのよ。

いえ、書かれてるけどみたこともない様なものだから、ただの落書きかと思ってた」

そうなんだ。

ん…?

そういえば

「君は魔法が使えるの?」

僕はユーロに聞いた。

「は?」

「だって上位古代語とか知ってるんでしょ?」

「ああ、そういうことか。俺は使えないぜ」

「なんで?」

「魔導書を読んだことないからな」

「ふぅん」

そっかよく考えたら、魔導書ってのが必要なんだ…

「でもなんでユーロさんはこれが魔法の剣ってわかったんですか?」

ミスティが聞いた。

「だって、ユーロさんは、特にこれだって目印もないのに気づいたんでしょう?」

たしかにそうだ。

「それは…」

「ユーロが天才だからよっ」

サニーが、喋ろうとしたユーロの横から口を挟んだ。

「お前は黙ってろ」

「えぇぇ?いいじゃん」

「だめなもんはだめだ」

「う〜…わかったわよぅ」

サニーはユーロのふところにもぐりこんだ。

「さて、つづきだがな。

この剣のさやについている変な模様…

これは俺の故郷の集落に伝わる石版に書かれている文字にそっくりだったのさ」

なるほどなるほど。

…でも

「この剣たいして切れ味がいいわけでもないし、当たりやすいわけでもないよ」

僕は言った。

「そりゃそうだ。

この剣は、ある『言葉』を唱えることで本当の力をだすらしい」

言葉…

「この剣には、こう刻まれている。

『この剣は真なる者にのみ扱える物なり。

真なる物よ、真なる言葉を唱えよ。

さすれば、汝は真なる力を得ん』

ってな」

真なる言葉…なんだろう?

「じゃあ、その真なる言葉を言えば、その剣は魔剣になるんですか?」

ミスティがそう聞いた。

「魔剣って言うか…まぁそうなるな。

真なる言葉を言えば力を発動するんだろう。

この言葉の魔剣は」

「…」

言葉…

真なる言葉…?

たしか、どこかで…

………………………『フィ…』

「なにか知らないかな?ディクス君」

僕の思考はファーストによって遮られた。

「え?あぁ…うーん。わからないや」

「そうかぁ」

『はぁ…』

みんなめっちゃ残念そうである。

「ま、いっか。

もともとただのブロードソードだと思ってたんだし、これからもそうだと考えればいいだけよ」

セシリアがめずらしく人を気遣ってるっ!?

あ、明日は天変地異でも起こるんじゃないかっ!!?

                                バキョッ!

「いったぁぁぁっ!」

頭に激痛が走った。

「なんか失礼なこと考えてたでしょ」

…な、なんでわかったんだろう。

「けんかしてないでさっ、ほら、町が見えてきたよ」

頭をさすりながら遠くを見てみるとチックルの言うとおり、確かに見えていた。

目的の地、ハマンカが。