依頼


頼まれたことはやる。そしてお金をもらう。
それが依頼ってモノよ?
けど依頼人は必ず正しいわけじゃないわ。
頭に入れといた方がいいわよ。



「ま、同じ町にいるんだ。また会えるだろ」

俺は言った。

「…そうですね」

僕たちはユーロが手を振りながら去って行くのを、少しの間見つめていた。



「さてと、依頼人の名前と住んでるところ。

なんていったっけ?」

明るい声でセシリアが言った。

「…」

けど僕たちは答えなかった。

少しでも仲良くなった人と別れるのは結構気が沈んでしまうもんだ。

「なんていったっけ?」

「…」

答える気にというより喋る気になれない。

「なんていったっけって聞いてるでしょっ!

ちゃんと答えなさいよっ!!」

                          バキョッ!

「いったぁぁぁぁぁぁぁっ!」

セシリアは杖でおもいっきり僕を叩きつけた。

「なにするんだよっ」

「人の問いにきちんと答えないからよっ!」

いたたたぁ…

「だからってなんで僕を殴るんだよ…」

「だってあんたが一番殴りやすいんだもん」

「なんだよそれっ」

「はーい、ストップストーップ」

ファーストが間に割り込む。

「おちこんでても、喧嘩してても、なにもはじまんないし。

ここはおとなしく依頼人のとこへいこうじゃないか」

「むぅ…」

止められて言い合う気も失せたのか、セシリアはつまらなそうに黙った。

「そうそう、ファーストの言うとおり、さすがファースト。おいらもそう思ってたのさ」

「はっはっは、さて行こうか」

「あの…」

ミスティがファーストに声をかける。

                                     トッテトッテト

聞いちゃいない。

「すいません。ファーストさん」

チックルとギャーギャー話しながら歩いてる奴に5m後ろから言っても聞こえないと思うけど…

ミスティ…

しかたないな。

僕は少し足早にファーストの所まで行くと、肩を軽く叩いた。

「うん?」

「ミスティが呼んでるよ。さっきから」

ファーストがミスティの方へと向きかえる。

「なんだい?」

僕はミスティに軽く合図を送った。

それに気付いたのか、こっちに軽く微笑んで(感謝してるってことだろうね)ファーストの方へ

数歩近寄って言った。

「ファーストさん、依頼人の家は正反対で、そっち行くと街でちゃいますよ」

…一瞬僕らの間にだけ寒い風が吹き抜けた。



依頼人の家は簡単に言ってデカイ。

そう言うしかなかった。

いや、僕の家もこれくらいあったけど、見栄じゃなく。

土地の大きさが僕の所の1.5倍はあるかも…

主にフィゼアと言う果物を売る商売をしてるらしい。

とりあえず、今僕たちは応接間にいる。

部屋の中の絵や置物は趣味の良い物ばかりで、成り上がりではないことがわかる。

と、ガチャリとおくのドアが開いた。

30を過ぎたばかりくらいの男性である。

名前はクルス・フェイモンだったはず…

クルスさんは僕たちが座っている長椅子の反対側の椅子に座った。

「依頼を引き受けてくれるのは君たちだね」

「あの、依頼はモンスター退治…でしたよね?」

「ああ、そうなんだよ」

一体どんなモンスターを退治すればいいんだろう…

「実はこの町の東にある森に変なモンスターがでてくるんだよ」

「それはどのような奴ですか?」

「それが、形が一定してないんだ…

もしかしたら何匹もいるのかもしれないし、1匹が変身能力を持っているのかもしれない。

そいつを倒してほしいんだ」

「なるほど」

「他にも何人か向かわせたのだが…5人に3人は瀕死の重体、もしくは死亡している。

後の数人は逃げ帰ってきたらしいんだが、何も話さずにどこかへ行ってしまうんだよ。

なにがでたのかも話さないし、話したとしても姿が一致しないんだよ」

一体どんな奴なんだ…?

「あんたが自分で確かめればいいんじゃないの?」

「セシリアッ、フェイモンさんに失礼よ」

「いや、実際そうするのが一番なんだろうが…。

私は戦闘能力がないに等しいんだよ…

私も人間だからね…死にたくはないんだよ」

確かに、それはそうだ。

死にたくはないもんね。

「この依頼は東の森にいってモンスターを退治すればいいんですね」

ってことだよね。

「ああ、そうなるね」

「報酬は全員で3000Gだっけ?」

チックルが言う。

「そうだ…しかし、できるかね?

けっこうモンスターは強そうだよ…?」

うっ、死人とかでてるもんなぁ…

ええぇいっ、悩んでちゃ駄目じゃぁ!

よしっ。

「じゃぁ、東にいけばいいんですね?」

「そう、フィゼア園が近くにあってね、退治してもらえないと来年は大赤字だよ」

ふむ。

「ディクス、早く行こうよ。おいらひまでしょうがない」

チックルが言ってくる。

「うん、じゃ、いこうか」

僕達は、とりあえず前金をもらわずに依頼人の家をでた。



「明日出発にしましょ」

セシリアが言う。

「なんで?」

「ばっかじゃないの?

もう夕方なんだから着いた頃には夜になっちゃうわよ。

これがどんな厄介な事かぐらいわかるでしょ?」

「う、たしかに…」

夜行性の獰猛な動物とかいるし、前も見づらいし…

「じゃぁ、あそこの宿に泊まりましょう。

あそこなら依頼人の家にも近いですよ」

と、ミスティは前方斜め右にある『キルスの青い翼』亭を指差した。

「うん、じゃぁそうしよぅ」

僕らはその宿へ向かった。

と…

「あれ?チックルは?」

「あれ?」

「あ、あそこにっ」

チックルは店でフィゼアを買まくっていた。

「無駄金使うなぁぁぁぁぁっっ!」

                                 ドゲシャッ!

「ぴぎゃぅっ!」

セシリアの蹴りがはいった。

あ、気絶したよ…まいっか。

僕らは気絶したチックルを引きずって宿にむかった…