のべる


ありがたいいただきものデス♪


 秋の夜の丘は涼として音に溢れています。色んな虫たちが奏でる音や、強くなってくる 風の音。そして風に揺れて歌うススキたちの声。丘の上は一時の音楽会場になっています。
観客は空に浮かぶ星たちと、丸く円を描く満月。空は快晴で、夜色の蒼空がどこへでも行 けると思わせるように広がっています。今日は十五夜。お月見をするのには絶好の夜です。
 丘の上には少年と少女。風が吹き、二人が着ている服の裾をはためかせていきました。
「はぁ……良い月だね。私、こんな綺麗な月生まれて初めてみた」
「そう? 僕はいつも見慣れてるから……」
「ずるなぁ、それ」
「そんなこと言われてもなぁ」
 少年は苦笑。少女はくすりと笑うと空を見上げます。
「そういえば、私たちがここで会ってから、もう半年以上たつんだねぇ。時間がたつのっ て早いなぁ」
「そうだね。一番最初年上かと思ったけど実は同い年だったとか。色々あったね。 聞いたときはびっくりしたよ。ひどい人だねぇ」
「まぁまぁ、埋め合わせはちゃんとしたじゃん」
 少年と少女のとりとめのない話は続きます。出会ってからいままでの思い出、学校の出 来事や、丘の上の話。会話はとまらず、丘の上の音楽会に彩りを添えています。
「ねぇ」
 そして、会話が少し途切れたころ。少女がぽつりと呟きました。それは今までの楽しそ うな口調ではなく、ちょっと落ち込みぎみなものです。
「ん? どうしたの?」
「こんな日がずっと続いたらいいなぁって。そう思うときない?」
「何を言い出すかと思えば。そんなことか」
「もう。こっちは真剣なんだから、ちゃんと答えてよ」
「うーん……そうだなぁ。君はどう思う?」
 少年は少し考えてから、逆に少女に問い掛けます。少女はちょっと困ったようにうつむ くと少年の方は見ずに空を見上げて言います。
「私は……こんな日が続けばいいと思うよ。これからもこの丘の上で、風と空に抱かれな がら、いるのは私たちだけで。そんな日が続いて欲しいって思う」
「なるほどね」
「あなたは?」
「僕も続けば良いと思う。でも無理だろうね」
「どうして?」
「時間は絶えず進んでいくから。僕も君もこれから大人になっていく。その過程でもしか したらこの町から出ていってしまうかもしれない。考えが変わってしまうかもしれない。 ……だからさ」
 少年の言葉に少女は、はっと体を強張らせますが、少年は気づきません。少年は立ちあ がると少女の方へ向き直り、手を差し出しました。
「さ、今日はそろそろ帰ろう。日が変わる前に帰らないとね」
「う、うん」
 差し出された手を使って少女も立ちあがります。少年はそのまま手を離さずに、帰りの 道を歩きだします。
「ねえ」
「ん?」
「手……」
「あぁ……いや?」
「ううん……そんなことない……けど」
 少女は頬を少しだけ染めてそういいます。そして戸惑いながらもつながれた手を離すこ とはありません。少年は少女の手を引いて、ススキの野原を歩きつづけます。
「さっきこんは日は続かないって言ったけど……」
「ん」
「だからこそ、今この瞬間を大切にしたいって思うんだ。この先を悩むより、今を大切に したい」
「……ありがと」
「いえいえ」
 少年と少女は手と手をつなぎ、丘の道を下って行きます。月の光がつくる影が仲良く一 つにつながります。空に浮かぶ星たちがやさしい光を降らせながら、そっと二人を見守っ ていました。




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