冬。空はどこまでも高く高く澄んで太陽の光を届けます。丘はすっかり雪化粧をして、 一面の銀世界を描き出しています。雪に陽光がキラキラと弾けて、ひとつの大きな宝石の ようです。 青空と雲と雪と。青と白の2色に染まった丘の上に、少年と少女はお互いの手をつない で立っていました。 「すごいすごい! 私、こんなに雪が積もってるの初めて見た!」 「これくらいは当たり前に積もるよ。これからもっと積もるんじゃないかな」 「ほんと!? うわぁ見てみたいな〜」 「でも、もっと積もったらここに来れないけどね」 「あ、それは残念かも」 空と雪とを見ていた少女がつないでいた手を離し、くるりと体をまわして少年の方を見 ます。手を後ろに回していたずらを思いついた子供のように目を輝かせています。 「ねぇ。私子供の頃から一つだけ、どうしてもやりたいことがあったの」 「ん? なに?」 「こんな風に、思いきり雪で遊ぶこと!」 少女はそういうなり足元の雪をすくって少年へ投げつけます。とっさの出来事に対応で きず、少年は思いきり雪をかぶってしまいます。その様子を見て少女は声をあげて笑いま す。楽しそうに、嬉しそうに。 「やったぁ!」 「……」 「……怒った?」 少年は無言で少女に近寄り、少女の手をつかみます。そしてそのまま、力任せに少女を 引き寄せました。 「え? ちょ、ちょっと……きゃぁ!」 引き寄せられた少女はバランスを崩します。しかも、少年は少女の足をひっかけていま した。足をだして体勢を立てなおすことも出来ずに、少女は前のめりで雪の上に倒れこん でしまいます。 「おかえしだよ」 少年は倒れている少女の傍らにしゃがみ込むと、にっと笑います。 「ふふふ。冷たくて気持ちいい」 仰向けになった少女がいいました。少年は手を差し出すと少女を助けおこそうとします。 しかし、今度は少女が力任せに少年の手を引いて、少年を倒しました。 「うわっ」 「ふふ……おかえし」 「まったく。濡れずにすむと思ったのに」 「……ねぇ。もし、私がどこか遠くへ行こうって言ったら……どうする?」 「遠くへ?」 「うん。この空の果て、まだ誰も知らないような場所。遠い遠い場所へ」 「どうだろうね。わからないよ。ただ……」 「ただ?」 「今君はここに居るんだし。そんな先のことは考えなくてもいいと思うな」 そう言って少年は手に持っていた雪を少女の顔へのせます。突然視界を白でふさがれた 少女は、驚きと冷たさで小さな悲鳴をあげました。 「きゃっ。何するのよ!」 「なにって、雪合戦。思いっきり雪遊びするんでしょ?」 そういいながらも少年は次の雪だまをつくっています。少女も負けじと雪だまを作りは じめました。少年と少女。二人だけの雪遊びのはじまりです。空は静かに二人を見守って いました。いつまでも、いつまでも。 |