★第2話・少年 少年が少女に出会ったのは一ヶ月ほど前のことでした。 少年は毎日がつまらなく、嫌いでした。そして自分もつまらなく、嫌いでした。 彼は一週間のうち五日を塾や習い事に潰されていました。でも、だからつまらないのでは、嫌いなのではありませんでした。 彼はほとんど何もしなくてよかったから。だって、勉強も習い事も、彼にとっては取るに足らないことだったのです。 彼は暗記が得意でした。大体のものは一、ニ回その文を読めば頭に入ります。 彼は計算が得意でした。公式さえ押さえておけば、基礎も応用も簡単にこなしました。 彼は楽器が得意でした。たいていの楽器は数日練習すれば弾きこなせました。それに楽譜は少し見れば覚えられたので楽譜は要りませんでした。 一般から見て天才と呼ばれる人だったのです。 運動は普通でしたが、これだけ出来れば周りは彼を尊敬し、あるいは妬みました。 少年は尊敬も妬みも要りませんでした。普通に接して欲しいと思っていました。しかし、それはままならず、結局彼はどんどん敬遠され、いつしか孤独を感じるようになったのです。 だから少年は毎日がつまらなくて、嫌いでした。 だから少年はこんな自分がつまらなく、嫌いだと思っていました。 そんな時です。ある日彼は塾をサボり、近くの丘に登りました。 少年はこの場所が好きでした。ここは風が気持ちよく吹くから。ここは木々の唄が聞こえてくるから。ここは晴れた夜には月がよく見えるから。 そしてこの日、彼はちょっと寂しそうに呟きました。 「なんで僕はこういう風に生まれたんだろう……。 なんで毎日こんなにつまらないんだろう……。 どうして僕はこんなに……心が苦しいんだ……?」 いつのまにか少年は泣いていました。空虚な気持ち、孤独な気持ち、いろんな気持ちが少年の涙を溢れさせていったのです。 風が吹きました。彼を慰めるように。木々が歌いました。彼の心を抱きとめるように。 そして、月が輝きました。彼の全てを包み込むように。 少年は嗚咽を押さえず、声を出して泣きました。そんな彼はそこらにいる子供とどこも違いはありませんでした。 「どうしてあなたは泣くの?」 声が聞こえてきました。澄み渡った女の子の声です。 声は続きました。 「何もが嫌いなのね。自分を別格に捉える周囲もそう捉えられる自分も。 そして寂しさが、孤独があなたに空虚な気持ちを生ませるのね」 その声のいう通りでした。そこで少年は顔を上げました。 「大丈夫。私があなたの友達になってあげる」 その少女は彼に手を差し伸べました。綺麗な黒い髪を三つ編みにした、十五ばかりの優しそうな少女でした。そして、彼女は月の光に照らされて幻想的な雰囲気を漂わせていました。 「怖がらないで。あなたは独りじゃないんだよ」 その微笑に彼は少女の手を取りました。初めて会う人への抵抗心は全くありませんでした。 「君は……誰?」 少年は尋ねました。 「私は月の記憶。月から地球を見守っていた、月の記憶。名前はないわ」 「そう……」 彼はこの少女に、何か親近感を覚えました。どうしてかはわかりませんでしたが。 でも何故か少年は、彼女と分かり合えることを確信していました。 これが少年の少女との出会いです。 |