★第4話・踊る心。2人の気持ち さあ、そろそろお茶会も中盤にさしかかりました。 少年と少女は踊ります。軽快なリズムと共に。明るい曲と共に。 初めのうちは上手く踊れなかった少年も、今ではプロに負けないほどです。 2人は踊ります。時にはゆっくり、時には早く。時には優しく、時には激しく。 その踊りは月と星に照らされて、とってもとっても幻想的です。 「そうそう、あなたもだいぶん上手になったわね。えらいえらい」 「子供扱いはよしてよ」 「子供のくせに」 少女はくすくすと笑いました。 そう、ここに来たばかりの時はできなかったことです。 彼女は毎日少年と話して、時にはお茶会をすることが楽しみでたまりませんでした。 彼女は少年に出会ってから、情報を集めることが楽しくなってきました。だって、人間のいいところを見つけることができるようになったから。きっと今までは知らずのうちに人間の粗ばかり探していたのでしょう。 「君だってそうだろ」 「私はあなたよりもとても長く生きているわよ。だから子供じゃないわ」 「精神年齢そこまで変わらないじゃないか……」 少年は拗ねたような顔をしました。それはとても子供らしい顔つきでした。 そう、少女に会うまではできなかったことです。 今までは虚勢を張って、自分がさも大人であるかのような振る舞いをしていました。だって、周りが自分を別格に捉えつづけるから、気付かないうちにそうしなくてはならないと、強迫観念の様に彼はずっと「特別な人間」を演じていたのです。 そう、2人はお互いがお互いに出会って気付いたのです。 自分が求めていた暖かいものを。自分が探していた無くし物を。 自分が自分でいられる心の家を。 だから……。 曲が終わりました。2人の踊りも終わりました。 「踊りっていいわよね。楽しいし、気持ちいいし」 「……まあ、ストレスを発散してることになるからね。体を動かしてるんだから」 「夢も何もないこと言わないの」 少女は苦笑いを浮かべました。その言葉を聞いて少年はうつむきます。 「夢には……いつも裏切られてたから……」 少年は寂しそうに呟き、自分の椅子に座りました。 そんな少年を見て、少女は少年に近づき、後ろからそっと抱きしめました。 そして、いきなりのことに顔を赤らめる少年の耳元でぽそりと呟きました。 「大丈夫。信じてご覧。君の夢を。私は月だから、あなたという星の側でずっと見守っていてあげるから。側で助けてあげるから。夢は独りでかなえるものだなんて思わないで……」 少年はさっきとは別の感情で顔が紅潮するのを感じました。 それは胸の奥から込み上げるような、暖かいものでした。優しいものでした。 泣きたくなるようなものでした……。 少女は少年から体を離して自分の椅子へと向かいました。 その間少年は黙ってうつむいていましたが、少女がそっと椅子に座る時に、一言、 「ごめん……」 と呟きました。 少女はその不器用な『ありがとう』に、星が煌くような微笑みを浮かべて答えました。 さあ、まだまだお茶会は中盤にさしかかったばかりです。 |